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Hitachi

現場での注目テーマ

タッチパネル端末
活用と選定

工場の生産ラインに最適なタッチパネルの技術仕様

この記事がオススメな方

  1. 生産設備の安定稼働を追求する設備設計者の方
    製造装置の制御盤や操作盤に組み込む端末について、信頼性を担保するための具体的な技術要件や選定基準がわかります。
  2. 現場の端末トラブルにお悩みの生産技術者の方
    電源瞬断による停止や、粉塵・熱による故障など、現場特有のトラブルを解決するための端末の技術仕様を解説します。
  3. 設備の長期運用とコストを管理する方
    生産設備の長いライフサイクルを見据え、端末の保守や交換にかかる総所有コスト(TCO)を削減するポイントを説明します。
  4. メンテナンスフリーな設備構築を目指す方
    定期的な清掃や部品交換といったメンテナンスの手間を極力なくし、安定稼働するラインを構築したい方におすすめです。
  5. より専門的な技術情報に基づいて比較検討したい方
    CPUアーキテクチャやインターフェースの選定など、より深いレベルで、自社の要求に最適な端末を見極めたい担当者にも有用です。

この記事では、工場の生産ラインという特殊な環境に最適な業務用組み込みタッチパネルについて、その技術仕様を5つのテーマで専門的な視点から詳しく解説します。

工場に必要な業務用組み込みタッチパネルの役割と要件
製造装置の操作画面や生産管理システムの端末として、なぜ専用の組み込みタッチパネルが必要なのか、その役割と基本要件を解説します。
UPS搭載で電源の瞬断や不安定さに対応
自動組立ラインなどで、一瞬の電源断がライン全体の停止に繋がるケースを想定し、システムを安全に維持する内蔵UPS(無停電電源装置)の重要性を解説します。
現場環境に強い防塵・防滴性能、ファンレス仕様
工作機械で切削油が飛散する環境においても、内部に影響を及ぼさないIP等級の防塵・防滴性能と、故障原因となる粉塵の吸い込みを防ぐファンレス設計の技術的なメリットを説明します。
作業性を考慮した手袋対応の抵抗膜方式タッチパネル
厚手の安全手袋を着用したオペレーターが、確実な操作を求められる状況を想定し、圧力で検知する抵抗膜方式タッチパネルの有効性を解説します。
設備のライフサイクルを支える製品供給とサポート体制
半導体工場のように、一度認定された装置構成を長期間維持する必要がある場合に、同一モデルの「長期安定供給」が、結果的にTCO(総所有コスト)をいかに削減するかを説明します。

1. 工場に必要な業務用組み込みタッチパネルの役割と要件

スマートファクトリーの実現に向け、工場の生産ラインでは、あらゆる機器がネットワークに接続され、データが収集・活用される時代になりました。その中で、製造装置を制御し、生産状況を可視化する操作画面(HMI)として、また、MES(製造実行システム)の情報を表示する端末として、「業務用組み込みタッチパネル」が果たす役割はますます重要になっています。
しかし、生産ラインはIT機器にとって極めて過酷な環境です。そのため、端末選定にあたっては、民生用とは全く異なる、工場特有の厳しい技術要件をクリアする必要があります。

2. UPS搭載で電源の瞬断や不安定さに対応

多くの動力機械や溶接機が稼働する工場では、電源ラインに深刻なノイズが乗ったり、瞬間的な電圧低下(瞬断)が発生したりすることが頻繁にあります。たとえ0.1秒にも満たない瞬断であっても、通常の端末はOSの異常や突然の再起動を引き起こし、生産データの損失やラインの停止といった重大なインシデントに繋がりかねません。
この電源品質の問題に対する最も確実な技術的解決策が、UPS(無停電電源装置)機能の搭載です。特に、本体にUPS機能を標準で内蔵しているモデルは、以下の点で大きなメリットがあります。

  • システムの保護: 瞬断発生時に、内蔵バッテリーからの電力供給に即座に切り替わり、OSを安全に終了させる時間を確保します。これにより、ファイルシステムの破損や、書き込み中だったデータの消失を確実に防ぎます。
  • コストとスペースの削減: 制御盤内に外付けのUPSを別途設置する必要がなく、その分のコストと貴重な盤内スペースを削減できます。配線もシンプルになり、設計・施工の工数も削減できます。

電源トラブルによるダウンタイムは、工場の生産性における最大の敵の一つです。UPS機能の内蔵は、もはや「あれば便利」な機能ではなく、安定稼働のための「必須仕様」と言えるでしょう。

3. 現場環境に強い防塵・防滴性能、ファンレス仕様

製造現場は、さまざまな液体や粉塵が飛散・浮遊していることも多く、過酷な環境です。こうした環境は、精密機器である業務用端末にとって大きなリスクとなります。

  • 防塵・防滴性能(IP等級): タッチパネルは、その「顔」となるフロントベゼル部分の保護性能が重要です。IP65準拠のフロントベゼルは、外部からの液体や固体の侵入を物理的にシャットアウトします。これにより、高圧洗浄が必要な食品工場や、切削油が飛び散る工作機械の操作盤でも、内部の電子部品を確実に保護します。
  • ファンレス仕様: 長期安定稼働を実現する上で、ファンレス設計は極めて重要な技術仕様です。冷却ファンは、空気と一緒に現場の塵や油煙を吸い込み、端末内部に堆積させます。これがヒートシンクに詰まると冷却性能が低下し、熱暴走による性能低下や故障の原因となります。ファンレス設計は、この根本的な問題を解決し、メンテナンスフリーを実現します。低消費電力のCPUを採用し、筐体全体で効率的に放熱する高度な熱設計技術が、その基盤となっています。

4. 作業性を考慮した手袋対応の抵抗膜方式タッチパネル

生産ラインのオペレーターは、安全手袋や作業手袋を着用しているのが常です。この状況下で、スマートフォンに代表される静電容量方式タッチパネルは、確実な操作が困難な場合があります。特に、緊急停止ボタンの操作や、正確な数値入力が求められる場面での操作ミスは許されません。
技術仕様として、あえて「抵抗膜方式」のタッチパネルを選択することは、現場の要求に応えるための合理的な判断です。抵抗膜方式は、指や専用ペンによる物理的な圧力で入力を検知するため、手袋の種類(素材や厚み)を問わず、確実でミスのない操作が可能です。また、構造がシンプルでノイズに強いという特長もあり、工場の電磁環境下でも安定した性能を発揮します。

5. 設備のライフサイクルを支える製品供給とサポート体制

生産設備のライフサイクルは10年、あるいはそれ以上になることも珍しくありません。その中核をなす制御用端末が、わずか数年で生産終了になってしまうと、将来的な保守や設備増設の際に、深刻な問題を引き起こします。故障した端末の代替品として異なるモデルを導入しようとすれば、OS、ドライバー、アプリケーションの互換性検証や、場合によってはシステムの再設計が必要となり、莫大なコストと工数が発生します。
これを避けるためには、製品選定の段階で、メーカーの供給ポリシーを確認することが不可欠です。例えば「発売後5年間の長期安定供給」を保証している製品であれば、設備のライフサイクルを通じて、同一仕様のハードウェアを継続的に入手できる安心感があります。これは、導入から廃棄までにかかる総所有コスト(TCO)を削減する上で、非常に重要な技術仕様の一つです。

まとめ

工場の生産ラインに導入するタッチパネルは、表面的なスペックだけでなく、過酷な環境下で長期にわたり安定稼働するための本質的な技術仕様を見極める必要があります。電源の信頼性や環境耐性、確実な操作性、長期運用性を備えた端末は、生産ラインの安定稼働を支え、工場の競争力向上に貢献する基盤技術となります。